亡き夫の遺品から写真が見付かった。
その写真を夫の同僚に見てもらうと「分からない」、夫の兄弟に見てもらっても「分からない」。
夫と私には2人の子供がいるが、その写真を子供達に見せることが出来なかった、なぜなら、マンションの一室で撮ったと思われるものだから。
私は夫のことを仕事熱心で家族思いの真面目な人だと思っている、恐らく子供達もそう思っているだろう。
しかし、マンションの一室で映る夫は家族にあまり見せない笑顔をしており、私は夫の不倫を疑ってしまった。
契約書からマンションの場所は突き止めた、どこの部屋かも分かっている、しかし、行ってみる勇気が私にはない。
私の背中を押してくれたのが2人の子供たち、子供たちに付き添われマンションへ行ってみると、玄関ドアには夫の名前の表札が掛かっていた。
チャイムを鳴らしたのは上の子供、ポスト口を覗いたのは下の子供、そうしたのは玄関ドアのカギが掛かっていたから。
ポストに溜まっている不在票から夫が借りていたことには間違いない、マンションを管理している会社に連絡をすることも考えたが、夫の不倫を子供たちの前で晒すわけにはいかず、カギを失くしたことにして業者さんに来てもらった。
業者さん、「簡単なカギですからスグ開きますよ」
心の何処かで現実を知りたくない私はカギが開かないことを願っていたが、カギは2分も経たないうちに開いてしまった。
業者さん、「合鍵を作りますか?それともセキュリティの高い新しいカギに交換しますか?」
私、「・・・」
子供たち、「・・・」
玄関ドアを開けると、見覚えのある靴が置いてあった。
先に部屋に入ったのは子供たち、すると、「爺ちゃんの家と同じ匂いがする」、部屋に入った私も、そう思った。
夫の父親は画家、夫も画家を目指し美術の学校に行っていたのだが、子供が生まれたことで画家になることを断念。
マンションはアトリエとして借りており、見晴らしの良いところには私達家族4人が描かれた絵が飾ってあった。
夫が過ごした家族の知らない時間、家賃の支払いは勿体ない気もするが、未完成の作品があるため暫くは借りておくことにした。
他人からしたら価値のない絵かもしれないが、家族にとっては大事な夫の作品。
マンションのカギはセキュリティの高いものに変えてもらい、たまに夫と2人だけの時間を過ごしている。

 

 

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