若い時の父親は、町内会やマンションの役員を積極的に請け負い近所の人から親しまれていたのだが、認知機能が低下してからは近所の嫌われ者になってしまった。
鍵屋さんに来てもらったのは、自分の部屋のカギを交換するためではない。
鍵屋さんにカギを効果してもらったのは、父親が住む部屋の両隣の部屋。
カギの交換費用は、私の自腹。
他人の家のカギの交換費用を私が自腹で支払ったのは、両隣の住人に父親が迷惑を掛けているから。
認知機能が低下した父親は、自分の部屋と両隣の部屋の区別が付かなくなり、自分の部屋のカギで両隣の部屋のドアを開けようとしたのが、1度や2度ではない。
両隣の住人は、親しまれていた時の若った父親を知っているため、自分の部屋と他人の部屋の区別が付かなくない私の父親に寛容的なのだが、玄関ドアが開かないと夜中であろうが早朝であろうが、認知機能が低下した父親は他人の部屋のドアをドンドン叩いて迷惑を掛けてしまう。
両隣の部屋の玄関を指紋で開くカギに替えると、見たことのないカギに認知機能が低下した父親は、カギを刺すのを断念。
このことを会社の新入社員に話すと
新入社員、「自分の部屋のドアを、指紋で開くカギに替えれば良かったじゃないですか?」
私、「父親がカギを開けられないじゃないか」
新入社員、「指紋で開くカギって、指に触れるだけですよね」
新入社員は若く介護経験がないため、認知機能が低下すると、指で触れてカギを開けられることが覚えられないことを分かっていない。
しかし、分かってなかったのは、私だった。
父親が玄関ドアを中々開けないため、監視カメラで父親の様子を見ていると、父親はカギ穴に指を当ててカギを開けようとしていた。
私、「父さん、何をしてるの?」
父親、「どうして、うちのドアは指紋で開かないんだ?」
うちのドアも指紋で開くカギに換えたら、再び両隣の住人に迷惑を掛けてしまいそうで、どうしたら良いんだ?